NVIDIA AI Summit Japan探訪 ~日本におけるAIの現在・未来~
2024年11月12日~13日に開催された、「NVIDIA AI Summit Japan」。トレンドマイクロはGoldスポンサーとして参加し、NVIDIAが提示するAIの展望を伺うとともに、当社ソリューションをご紹介しました。
NVIDIA AI Summit Japan開催!
2024年11月12日~13日、ザ・プリンス パークタワー東京にて開催されたNVIDIA AI Summit Japan。さまざまな企業や研究機関の有識者による60の講演・セッションが行われ、招待制のイベントながら事前の参加登録は3,600人を超えたとのことです。また、50を超えるスポンサー企業が名を連ね、トレンドマイクロもGoldスポンサーとして参加、ブースに出展し当社のソリューションの紹介を行いました。
講演において、とりわけ期待と注目度が高かったのは、NVIDIAの創業者/CEOのジェンスン・フアン氏(以下、フアン氏)の特別講演、そして、ソフトバンクグループ株式会社の創業者/取締役の孫 正義(そん・まさよし)氏とフアン氏の対談「ファイヤーサイドチャット」でしょう。「AI革命」という言葉に象徴される新しい時代をけん引するNVIDIAのCEOがどのような展望を示すのか。そして、1980年代から現在に至るまで日本の情報通信・IT分野の先駆者でありつづける孫 正義氏が、AIによる社会の変貌とそれに対する期待について、日本の企業家の立場からどのような見解を述べるのか。二人の講演を一目見ようと長蛇の列ができ、会場は朝から熱気に包まれました。
フアン氏は特別講演において1時間にわたり、NVIDIAの様々な製品やソリューションを紹介しました。次に講演の一部をお伝えします。
「NVIDIAはアクセラレーテッドコンピューティングを発明しました」。フアン氏はNVIDIAのこれまでを語り始めます。アクセラレーテッドコンピューティングは、逐次処理に優れたCPUと並列処理に優れたGPUという二つのプロセッサの利点を活用したものです。そのために同社が作成した多数のライブラリのうち、もっとも重要なもののひとつとしてCUDA(Compute Unified Device Architecture)があります。CUDAにはcuDNN(CUDA Deep Neural Network library)も含まれます。cuDNNはディープニューラルネットワーク用GPUアクセラレーションライブラリです。これによりディープラーニングの加速・民主化が進み、AIと機械学習を10年間で100万倍に増加させることができ、これによりもたらされたのがChatGPTです。
ただ、ChatGPTの動作はいわば「1回限り」です。質問をすると回答する。何かを頼むとそれに応える。それにひきかえ「思考」は1回では済みません。複数のプランを考え、複数の選択肢から最適な回答を選び、課題をステップに分解します。言葉の生成だけでなく思考するには、膨大なスピードでの計算が必要になります。パフォーマンス向上は、コスト削減、エネルギー削減を意味します。したがって、世界でAIの活用が進むなかで、出来るだけ早くパフォーマンスを向上させることがNVIDIAのミッションなのだとフアン氏は言及します。
そこで、AIデータセンタ向けの最新のGPU「Blackwell」を紹介しました。巨大なデータセンタにはこれらが数千、数万、数十万と接続されることでしょう。そして、このような並外れたスーパーコンピュータも、CUDA(GPU向け汎用計算ソフトウェアプラットフォーム)などのNVIDIAのソフトウェアを用いれば配備が可能になる。そうフアン氏は説明しました。
ジェンスン・フアン氏が挙げる2つのAIモデル
さて、それではAIとは何でしょうか?フアン氏は、今後非常に役に立つAIモデルとして2種類を挙げました。
ひとつは「デジタルAIワーカー」です。それは、理解し、推論し、計画を立て、実行します。たとえばカスタマサポート、研究助手、あるいはCEOの指導なども行い、「AIエージェント(Agentic AI)」とも呼ばれます。法人組織で活用する場合は、AIに求める機能に応じたトレーニングを行い、意図した作業を行えるか、意図しない挙動を起こすことはないかを確認する必要があります。
参考記事:Agentic AIとは?汎用人工知能(Artificial General Intelligence)へのマイルストーン
各組織のデータと業種・業界固有の知識を使用してカスタムの生成AIモデルを構築するプラットフォーム「NVIDIA NeMo」や、Copilotなどの生成AIアプリケーションの本番環境での構築を容易にする推論マイクロサービス「NVIDIA NIM」などのソリューションを紹介しながら、フアン氏は言います。「AIが人間の50%に取って代わるのではなく、100%の人間の仕事を50%やってくれると考えるべきです」。そう考えれば、組織の生産性を、あなた自身の生産性を、AIが高めてくれることに気づくでしょう、と。
役に立つAIモデルの二つ目として、フアン氏は「フィジカルAI」を挙げました。AIが機械に統合されたもの、すなわちロボットです。自動運転や人型ロボットがこれにあたります。フィジカルAIを造るには、①AIのトレーニング、②トレーニング結果のテスト・微調整・強化、③専用のプロセッサを搭載した実際のロボットへの実装という段階を踏み、①~③のループが繰り返されます。将来の工場はロボットのチームによって組織され、無数のセンサで全体の稼働状況がモニタされるでしょう。たとえば自動車工場では2つの工場を持つことになるかもしれません。つまり車体の製造工場と、車体に搭載するAIの工場です。すべての産業、すべての企業、すべての国が、独自のAI工場で独自のAIを生産することになるでしょう。AI工場の誕生は「新たな産業革命」と言えます。
ロボティクスが世界で重要な産業になるでしょう、とフアン氏は言います。この「ロボティクスAI革命」をリードするのは、世界のロボットの50%を製作し、優れたロボットを生み出してきた日本より適した国は考えられない、技術とAIの統合においてチャンスをつかんでほしい、との期待ものぞかせました。
ジェンスン・フアン氏、孫 正義氏とAIの未来を語り合う
特別講演の終わりに、フアン氏はソフトバンクグループ株式会社(以下、ソフトバンク)とのパートナーシップを発表、両社が日本最大のAI工場を設立し、すべての人にAIサービスを届けるという展望を述べました。ついで、ステージにソフトバンクの孫 正義氏(以下、孫氏)を招き入れると、会場に拍手が沸き起こりました(NVIDIAの公式サイトでも対談の模様がレポートされています)。
かつてソフトバンクがNVIDIAの大株主だった話や、二人がプライベートで交わした会話など、思い出を語り合ったのちに、両氏はこれまでの日本のIT産業の在りかたを振り返り、今後への期待や夢を膨らませました。
かつて日本はメカトロニクスをリードしてきものの、IT時代になるとソフトウェア産業は欧米や中国が主導するようになった、とフアン氏は言います。「日本はもっとアグレッシブになれたかもしれませんね」。それに対して孫氏は、大企業やメディアなどの「ものづくり」重視の傾向を指摘しました。物理的な「もの」を作ることに価値があり、ソフトウェアは実体のないものでその価値は信用できない、というような考え方が何年も存在しており、それが若い世代のスタートアップの意欲を削いでいた、と述べました。しかし孫氏は、ロボティクスとAIの統合においてその情熱をよみがえらせなければならない、と強調します。今、新しい時代の幕開けにあって、いったん「リセット」するのだ、と二人は声を揃えます。
孫氏は、少なくとも日本政府はAI革命を抑圧しようとはしておらず、AIに対して規制をかける他国のようなハンディキャップはない、と続けます。「しかしもっと政府はAIを促進すべきです。今や遅れを取り戻す時であり、今回は機会を逃すわけにはいかないのです」と強い意志を見せます。これを受けてフアン氏も、「そのためにはインフラ、“AI工場”が必要ですね」と応じました。両社は巨大なAIデータセンタを日本に設立しようとしていますが、それを研究者やスタートアップにほぼ無料で提供し援助することを企図しています。
参考記事:生成AIのビジネス活用と考慮すべきリスク
さらにフアン氏が、日本におけるAIへの望みや夢を孫氏に尋ねると、AIロボティクスや医療用エージェントなどを挙げたうえで、孫氏は「すべての人のための個人用エージェント」と答えました。つまり、すべての人がAIエージェントを持ち、健康、教育、旅行の計画などを相談し、人生を並走するようになる、というのです。
またフアン氏は、今や各国がそれぞれの文化、知識、インテリジェンスは国家資源だということに気づきつつあると言います。すべての国が自国内に「ソブリンデータセンタ」を持ち、そこに国家資源としてのデータを移行し、国独自のAIを生産すること、それが国家安全保障にもつながる重要な点だ、と二人は口をそろえます。また、同様のことが法人組織にも当てはまり、組織が自身のAIを生産し所有しなければ頭脳流出が起こりかねないとのこと。そのためにはまずインフラストラクチャと、AIを社会のすみずみに行き渡らせるネットワークが必要であるとし、両社のパートナーシップの向かう先に確信を深め、対談を終えました。
参考記事:ソブリンクラウドとは?プライベートクラウドやガバメントクラウドとの違いを解説
AI ✕ セキュリティ~トレンドマイクロのAI分野のソリューション~
すべての人、すべての法人組織、すべての国家がそれぞれのAIを持つ時代。それがまだあまり想像ができないとしても、AIのセキュリティが脅かされるような事態はできる限り避けなければならない、ということは頷けると思います。
トレンドマイクロはNVIDIA AI SummitのGoldスポンサーとして、出展ブースにて当社のソリューションを説明しました。AI時代のサイバーセキュリティ戦略としてトレンドマイクロは「AI for Security(セキュリティのためのAI)」「Security for AI(AIのためのセキュリティ)」を提示しています。
●AI for Security:AIを活用し、脅威の検知強化、対応の自動化、潜在的なセキュリティ侵害の予測を可能にします。NVIDIA AIとアクセラレーテッド コンピューティングを使用して機械学習アルゴリズムと高度な分析を実行することで、リアルタイムに高度な脅威を検知し、対応する能力を向上させます。
●Security for AI:AIモデルとデータを悪意のある攻撃(例:プロンプトインジェクション、トレーニングデータの改ざんなど)や脆弱性から保護します。これには、AIモデルとデータを保護するための厳格なセキュリティ対策を実施し、これらのテクノロジーが安全かつ効果的な動作することが含まれます。
トレンドマイクロのTrend Vision One – Sovereign and Private Cloud(V1SPC)は、自国の法律に準拠してデータ運用を行えるようにするソブリンクラウドや、自社のデータセンタまたはプライベートクラウドの閉域網に対し、統合サイバーセキュリティプラットフォーム「Trend Vision One」を利用できるオンプレミス型のセキュリティソリューションです。NVIDIA NIMとV1SPCを組み合わせることで、世界中の法人組織が生成AIを採用する中でインフラストラクチャをよりセキュアなものにします。トレンドマイクロのサイバーセキュリティに関するLLMをV1SPCからプライベート環境で提供するために、生成AIの推論に必要となるマイクロサービスであるNVIDIA NIMを活用します。それによりV1SPCは、データのプライバシー、リアルタイム分析、迅速な脅威の軽減によりセキュリティの強度を高めます。この連携により、次世代のAIデータセンタの複雑さが解消され、非常に効率的な脅威検出および対応機能を実現します。また、V1SPCは、NVIDIA DOCA App Shield、NVIDIA Morpheusとも連携しています。
参考プレスリリース:トレンドマイクロ、AIに対応したワールドワイドのプライベートデータセンタを保護
NVIDIA AI Summitの多くの来場者が、今後は個人から法人組織、社会、国家に至るまで、AIをどのように造り活用していくかがカギになりそうだと実感したことでしょう。ただ現段階ではどの組織も、AIデータセンタの設立やAIサービス立ち上げにすぐ着手、というところまでには至っていないようです。
当社ブースに立ち寄った方々にも、AIを利用したサービスを自社内に提供していたり、自身がAIを利用していたりする方が多いようでしたが、全体的にはAI関連のサービスやソリューション開発は緒についたばかりという印象です。まして、セキュリティには関心や懸念がありつつも、どのような場面の何が懸念なのかについては、実感が伴わない方が多いようです。当メディアでも、AI関連のセキュリティについての記事を掲載していますので参考にしていただけますと幸いです。
ジェンスン・フアン氏は特別講演の冒頭で「NVIDIAはさまざまな意味でタイムマシーンをつくっているのです」と言いました。私たちも折に触れてそのタイムマシーンに乗り、未来の展望を確認しながら、それぞれの組織の進むべき方向と、そこに必要なサイバーセキュリティを含めたソリューションを模索していくことが必要です。
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