ダークパターンとは?企業にとってのリスクを解説
ダークパターンとは、Webサイトなどのデザインに関して、利用者の意図に反し、事業者側にとって有利な行動をとるように設計されたインターフェースを指します。企業のマーケティング活動がダークパターンとして捉えられてしまうリスクや事例を解説します。
ダークパターンとは?
ダークパターンとは、主にWebサイトやアプリケーションなどのデザインに関して、利用者の意図に反して事業者側にとって有利な行動をとるように設計されたインターフェースを指します。
具体例として、宿泊予約サイトなどを利用している際に、「空席残りわずか」の表示を見て思わず予約ボタンを押してしまったことはないでしょうか?また、他にも定期購入のサービスの解約手順が複雑で、泣く泣く解約を見送った経験はないでしょうか?
悪意が明確にあるかどうかに関わらず、こうした事業者側にとって有利な選択に利用者を誘導する手法が、ダークパターンに該当する可能性があります。なお、この悪意がなくてもダークパターンに該当する可能性があるという点は、企業にとって注意すべき部分です。
例えばネットショッピング時に一度きりの購入に見せかけて、視認しにくい場所に非常に小さな文字で定期購入の説明が記載されているなど、明らかにユーザを騙して販売側の利益を拡大しようとしているものはもちろんダークパターンの一例です。しかし販売側としてはあくまで効果的なマーケティング手法として取り入れたつもりの「残数わずか」のような表示も、利用者の心理を操って不本意な契約を促すダークパターンの一種として捉えられる場合があります。
ダークパターンとしてユーザに捉えられることは組織にとってのレピュテーションリスクに繋がるだけでなく、直接的な金銭リスクにも繋がり得ます。実際に、2024年の3月には、ポーランド政府はAmazonのヨーロッパ本社であるAmazon EU Sarlに対し、悪質なダークパターンで消費者を誤解させたとして12億円の罰金を科したことを発表しています。
この事例では、在庫が少ないことや注文期限(残り2時間など)を告知され、焦燥感に駆られ商品を注文した利用者に対し、商品発送の告知メールがだされた時点で料金が引き落とされます。
通常、商品発送の連絡だけでは、商取引による契約成立とみなされないこと、利用者がこの契約条件に気づきづらいページのデザイン(ページ最下部に白地に灰色のフォントで記載されている)となっていることなどから、多くの利用者に誤解を与えている、という点がポーランド政府から指摘されています。
また、発送の告知がされても納期が守られなかったり、1か月近く連絡がなく、注文がキャンセル扱いになるケースが頻発していたことから、利用者が購入した商品の価値を正当に受けられていないことや、一定期間不当に金銭を凍結させられている点も問題点として挙げられています。
本稿ではダークパターンの類型やそこで利用される認知バイアスについて紹介します。組織の、特にマーケティング部署等に所属する担当者は、これらの詳細を把握し自身の活動が悪質なダークパターンに該当することの無いよう、注意を払う必要があります。
7種類のダークパターン
米国コンピューター学会(Association for Computing Machinery)に2019年に掲載された論文「Dark Patterns at Scale: Findings from a Crawl of 11K Shopping Websites」では、約11,000のショッピングサイトと約53,000の製品ページを分析した結果として、ダークパターンを以下の7つに分類しています。
類型 | 概要 |
Sneaking (こっそり型) |
顧客にとって重要な情報を見つかりづらくしたり、隠ぺいする |
Urgency (緊急性強調型) |
カウントダウンタイマー(虚偽の場合もある)などを設置し、顧客の購買行動に緊急性をもたらす |
Misdirection (誘導型) |
言い回しや視覚的なデザインを工夫することで、顧客を不本意な購買行動に誘導する |
Social Proof (社会性強調型) |
他の顧客の行動を説明または捏造し、同調圧力をかけたり、商品の印象を操作する |
Scarcity (希少性強調型) |
希少性を強調(根拠が不確かな場合もある)し、顧客の興味をひく |
Obstruction (妨害型) |
顧客が解約等特定の行為を行う場合の手続きを複雑化したり、冗長化し解約率を低下させる |
Forced Action (強制型) |
顧客の意思に関わらず、契約更新など購買に関わる行動を強制する |
表:ダークパターンの分類
(Dark Patterns at Scale: Findings from a Crawl of 11K Shopping Websitesを元に加工)
それぞれの内容について個別に記述します。
Sneaking(こっそり型)
こちらの具体例としては注文する商品に、別途追加で購入する必要のあるオプション商品のチェックボックスがデフォルトで有効になっている、などが挙げられます。オプション商品だけでなく手数料、サービス料、送料などの形で会計時になって初めて追加・表示される場合もあります。顧客が意図していない契約内容を気づかないうちに盛り込むことがこちらに該当します。
Sneaking(こっそり型)の表示例(出典:消費者庁ウェブサイト)
Urgency(緊急性強調型)
ショッピングサイトなどにおいて、割引タイムセールの時間(残り○分!など)を表示し、顧客を心理的に焦らせることによって、購買行動を促進する手法が具体例として挙げられます。悪質なものの場合、タイムセールの期限が切れても再度同様の表示がなされるなど、実際には虚偽の時間制約が施されている場合もあります。
Misdirection(誘導型)
具体例として、サービスの解約時に「本当によろしいですか?」や「〇〇の特典を失います」といった形で記載を顧客が心理的に選びづらい内容に工夫することで、契約更新に誘導することなどが挙げられます。他にも視覚的に購入に繋がらない選択肢をグレーアウトさせるなどして誘導するケースもあります。悪質なものでは、購買に繋がらない選択肢の文言を極端に不足した内容に置き換える(「ダイエットサプリを申し込む」と「不健康を受け入れる」が併記されるなど)ことで、顧客を誘導する場合もあります。
Misdirection(誘導型)の表示例(出典:消費者庁ウェブサイト)
Social Proof(社会性強調型)
商品のレビューや口コミにいわゆる「サクラ」を仕込んで、あたかも高評価を受けていることを捏造する手法が具体例として挙げられます。他にも、「現在この商品を○人が閲覧しています」のような記載で、商品価値を高く見せる手法がこちらに該当します。悪質なものであればこうした記述さえ虚偽のものである場合もあります。
Scarcity(希少性強調型)
Urgencyに近い手法ですが、ショッピングサイトなどにおいて商品の量的制限(残り○個!など)を表示し、顧客を心理的に焦らせる、または希少価値の高い物であると認識させることで購買行動を促進する手法がこれにあたります。こちらも悪質なものの場合、在庫が十分にある状態で虚偽の残り個数を表示している場合があります。
Obstruction(妨害型)
顧客が個人情報の削除や契約解除を行う際に、多数のページ確認や大量のアンケートに答えさせるなどして、その行動を途中で諦めさせることなどがこれにあたります。こちらはWebだけでなく電話をかけるなどの行程が含まれる場合があり、電話対応の時間が制限されている上、電話をかけても長時間繋がらないことで目的を諦めさせる場合もあります。
Forced Action(強制型)
個人情報取り扱いの同意とメールマガジン受信の同意が1つのチェックボックスにまとまっている場合や契約にあたって必要以上の個人情報入力が必須になっている場合などがこちらにあたります。悪質なものの場合、具体的な説明なしに自動課金プランに契約が移行するなどの場合もあります。
ここまでの記載で、それぞれの分類に関してダークパターンの中にもその悪質さに程度があることがわかります。希少性や時間的制約の告知など、事実に基づく記載である場合、正当なマーケティング施策の一部と言える上、顧客にとっても必要な情報である可能性があります。つまり、上記に該当するものがすべて悪質なものとは限らないという点に注意が必要です。
一方で事実に基づかない情報を用いて顧客を誘導したり、顧客の行動を妨害または強制するなどして、顧客に望まぬ機会を提供するようなインターフェースの設計は、目先の利益に繋がっても中長期的な信頼関係に影響をもたらすことがあることを事業者側は理解しておくべきでしょう。この観点は特に、SNSなどでの一顧客の投稿が大きい影響力をもたらす可能性のある現代においては、より重要と言えます。
ダークパターンに利用されている認知バイアス
認知バイアスとは、直感、過去の経験、固定概念や先入観によって客観的な判断ができず、非合理的に事象を認識してしまう心理現象のことです。この現象は情報が不足した状況において物事を素早く予測する上で欠かせない、人間に元々備わっている習性がもたらすものですが、ダークパターンはこの習性を巧みに利用します。
具体的にダークパターンで利用されている認知バイアスを6つ例示します。
アンカリング効果
最初に接触した情報や数値が、その後の判断や評価に影響を与えるという認知バイアスです。「通常価格10,000円」という表示を見た後に、「今だけ5,000円」の表示に接触した人は、お買い得であると判断し、もともと想定の予算が3~4,000円であったとしても購入に及ぶ可能性があります。ダークパターンにおいては、もともと販売価格が5,000円の商品に対し、架空の通常価格10,000円という情報を追加するなどした上で、期間限定(Urgency)という条件を付与して利用されます。
バンドワゴン効果
複数の選択肢のうち、人気や票が集まっている特定の選択肢に、より多くの支持が集まるという認知バイアスです。行列のできるお店や評価の高い店舗に興味が湧くのと同様の心理現象です。ダークパターンにおいては、上記のSocial Proofにたびたび用いられています。
デフォルト効果
判断に必要な情報が不足している状況下で、初期設定で選択された選択肢が選ばれやすい、または変更されにくいという認知バイアスです。デフォルト設定を推奨設定だと思い込んでしまったり、変更に伴う手続きや負担を避けようとする心理が働きます。ダークパターンとしてはSneakingやForced Actionにおいて頻繁に利用されます。
希少性バイアス
希少性の高い商品や手に入りにくい情報に対して、その内容にかかわらず希少性が高いというだけで価値を過大評価してしまう認知バイアスです。上述のScarcityはまさにこの心理現象を利用しています。
フレーミング効果
同じ情報でも、情報の表現方法を工夫することで情報に接触した人々の意思決定や認識が変化するという認知バイアスです。大きな手術を受けるか検討する際に「10%の確立で手術が失敗します」と告げられるか「90%手術は成功します」と告げられるかで情報の受け手の印象が変化する、といった心理現象がこれにあたります。ダークパターンでは、SneakingやMisdirectionなど様々な手法において使用されています。
サンクコスト効果
過去に投資してきたコストや資金を惜しむことで、合理的な意思決定を行うことができないという認知バイアスです。高いお金を払って購入した物品を、後から必要がない物と判明してもなかなか手放せなかったり、自分に必要のないサービスをこれまで支払った代金を考えるとなかなか解約できないなどの心理がこれにあたります。ダークパターンでは、長い契約手続き処理を経て、最後の最後に想定外のコストが含まれていた場合に、これだけ時間をかけたのだから、といった心理を起こさせ契約させる、などの形でSneakingやForced Actionのシナリオにおいて使用されています。
認知バイアスは、前述した通り、少ない情報下において自らの経験に基づいて予測を行う習性が生み出す負の結果であり、この習性が正常に作用する場合、経験に基づく合理的な判断や優れた直感に関連する場合があります。
つまり、利用者側に必要なことは、上述したような購買行動がすべて不利益に繋がるものと結論づけることではなく、こうした認知バイアスが非合理的な判断をもたらす可能性を含んでいるということを認識し、購買活動を行う際に客観的な視点を持って自分自身に利益をもたらす行動かどうか改めて確認することです。
ダークパターンが問題視された事例
解約ページの隠ぺい
一部の大手通信事業者は2020~2021年に契約サービスの解約ページが通常の検索エンジンで検索した場合に、表示されないような設定(HTML文書内に「noindex」タグを埋め込んでいた)を施していたことを総務省から指摘され、設定解除の対応を行いました。これは解約ページを見つけにくくする工夫を行うことで顧客の活動を妨害するObstructionのダークパターンに該当すると判断された可能性があります。
定期購入契約に関するわかりづらい説明
2020年、消費者庁は東京都の通信販売事業者に対し、顧客にとっての通常注文が定期購入契約の申込みにあたることの表示を怠ったとして行政処分を実施しました。具体的には速やかにWeb画面設計の改善を行うよう指示が出されることとなりましたが、指示文書の中で引用されたWeb画面にはSneakingやForced Actionなどに該当する様々なダークパターンが使用されていました。
個人情報にあたるクッキー情報の取得承認への誘導
2022年、フランスの行政機関であるCNIL(フランス共和国データ保護機関)が、複数のグローバルテック企業に対しWeb画面上でクッキー取得を容易に拒否できるボタンを提供していなかったことについて、数千万ユーロの罰金を科したことが、消費者庁が翻訳したOECD(経済協力開発機構)のレポートにおいて言及されています。こちらも顧客の選択を個人情報にあたるクッキーの承認に誘導するダークパターンとして評価されたことによって、直接的な金銭的リスクに繋がった事例です。
特にWebを介して商品を提供する、またはWeb画面上で個人情報を収集する機会を持つ組織の担当者は、組織の規模に関わらず問題視される可能性があることや大規模な金銭的リスクに繋がる可能性があることを、これらの事例から読み取る必要があります。
また行政指導や罰金に繋がらずともSNS上での苦情や批判の集中がもたらす中長期的なブランドイメージへの悪影響も同様にリスクとして認識し、不本意な不利益を被ることの無いようにWebサイトやアプリケーションのインターフェースの設計を見直すことを推奨します。
まとめ
ダークパターンと捉えられる可能性のあるものは、全て悪質だからやってはいけない、という結論や逆に、正当なマーケティング施策であるとさえ言えれば何をやってもいい、という極端な考え方は中長期的な視点でビジネスを発展させる目的においては適切な認識ではありません。
まずは悪意の有無にかかわらず、組織のマーケティング活動や購買関連のインターフェースがダークパターンに該当すると顧客や第三者に捉えられてしまった場合、様々なリスクに繋がることを認識することが必要です。
その上で契約条件の透明性や顧客に対する公平な選択肢の提供、事実情報に基づくマーケティング活動を行うなどインターフェース上の表現を詳細に設計することが必要です。
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