近年、基幹システムや開発環境などをクラウドに移行する企業が増えています。クラウド環境でシステムを運用するにあたって、重要なポイントとなるのがセキュリティ対策です。クラウド環境のシステムにおいて、設定ミスや脆弱性が放置されれば、重大なリスクにつながる可能性があります。クラウド環境でのセキュリティ状況の管理と監視体制を整えるために役立つことで注目を集めているのがCSPMです。
この記事では、CSPMの主な機能やCASB・CWPP・CNAPPとの違い、CSPMソリューションを選ぶポイントについて解説します。
CSPM(Cloud Security Posture Management)とは、クラウド環境におけるセキュリティ状況の管理と監視体制を整えるためのソリューションのことです。CSPMは、企業が自社のクラウド環境を効果的に管理しつつ、リスクを最小限に抑えるために活用されています。
昨今、企業や組織で利用しているクラウドサービスの構成に誤りがあったり、設定ミスや不十分な管理によって情報漏洩・サイバー攻撃などにつながったりする事例が後を絶ちません。こうした事態を未然に防ぎ、リスクを抑制する上でCSPMが注目されています。
CSPMの導入によって、IaaSやPaaSといったパブリッククラウドの設定を自動的に確認し、セキュリティの設定ミス、コンプライアンス違反、脆弱性の有無を効率的に確認できます。CSPMは、ビジネスシーンにおけるクラウドサービスの活用が一般的になっている現代に必要とされているセキュリティ対策の1つといえます。
CSPMの主な機能として、下記の4つが挙げられます。それぞれの機能によって実現できることについて詳しく見ていきます。
CSPMの主な機能として、パブリッククラウドの利用状況とリスクの可視化が挙げられます。
IaaSやPaaS、さらにその上に構築されているシステムの設定状況をダッシュボード上で確認でき、クラウド環境における脆弱なポイントや、その設定方法についてもリアルタイムで把握できます。
マルチクラウドの一元管理も、CSPMの主な機能の1つです。
企業においては、AWS、Azure、GCPといった複数のクラウドサービスを並行して利用しているケースが少なくありません。しかし、各クラウドサービスを個別に管理する場合、利用しているクラウドサービスの種類が増えるほど管理が煩雑になりやすい傾向があります。そのため、複数のクラウドを単一コンソールで一元管理できる点は、CSPMを導入する大きなメリットです。マルチクラウドの一元管理が可能になることで、一貫性のあるルールにもとづいてクラウドの設定を制御できます。CSPMは、多様なクラウドサービスを導入・活用する現代のビジネス環境に適しています。
国際基準にもとづくチェックによって、セキュリティ管理が可能になることもCSPMの主な機能です。
あらかじめ設定した企業の情報セキュリティポリシーや、「ISO/IEC 27001」「NIST CSF」「NIST SP 800-53」「SOC 2」といった情報セキュリティの国際基準にもとづくチェックを、CSPMは効率的かつ確実に実施できます。
それぞれの国際基準について、項目ごとに定められた基準をクリアしているかどうかチェックするには、セキュリティに関する専門知識が必須です。また、CSPMを導入していない場合、チェックに多大な労力と時間を費やすことになります。そのため、あらかじめ国際基準にもとづくルールを設定することにより、ポリシー違反がないか、クラウドサービスの安全性が保たれているかを効率的に確認できる点がCSPMの大きなメリットです。
CSPMは、クラウド環境におけるシステムの設定ミスの検知に役立つ機能も備えています。
CSPMは、設定変更の履歴を都度確認することにより、ルールに反する操作が行われていないかチェックが可能です。こうした設定ミスを検知した際には、アラートを発出して迅速な対応を促します。なお、サービスによっては適切な設定へと自動で修復する機能を備えたものもあるため、早期の問題解決に効果的です。
クラウド環境でセキュリティを守るソリューションは、CSPMだけではありません。代表的なソリューションとして、CASB、CWPP、CNAPPが挙げられます。クラウド環境でセキュリティを守るためには、それぞれのソリューションの違いを理解した上で、導入するソリューションを選定することがポイントです。CSPMとCASB、CWPP、CNAPPとの違いについて、それぞれ詳しく見ていきます。
CASB(Cloud Access Security Broker)は、従業員のクラウド利用状況を可視化・制御し、一元管理するためのソリューションです。クラウドの入り口でアクセスと情報の管理をチェックし、場合によってはアクセスをブロックします。CASBの主な役割は、ユーザと複数のクラウド事業者とのつなぎ役となり、利用しているすべてのクラウドサービスへのアクセスコントロール、マルウェアの検知、情報漏洩対策などを行うことです。
CSPMとの相違点は、チェックする範囲にあります。CSPMはクラウド環境全体の設定をチェックしているのに対して、CASBはクラウドの入り口で、アクセスと情報の管理をチェックしています。よって、チェックすべき対象に応じてCSPMとCASBを使い分けることが必要です。
CWPP(Cloud Workload Protection Platform)は、クラウド上の仮想マシンやサーバ、アプリケーション等のクラウドワークロードを保護するためのプラットフォームです。侵入防御やマルウェア対策のほか、脆弱性対策、セキュリティイベントの監視といった機能を備えています。
CSPMとは、提供するセキュリティ機能が異なります。CSPMはクラウド環境全体のインフラ設定やコンプライアンス違反を自動的にチェックするのに対して、CWPPはクラウドワークロードに対してウイルス対策や脆弱性対策などのセキュリティ対策を行います。なお、サービスによってはCSPMとCWPPの両方の機能を備えているものもあります。
CNAPP(Cloud Native Application Protection Platform)は、CSPMとCWPP、データ損失防止(DLP:Data Loss Prevention)、アプリケーション保護のソリューションを組み合わせたセキュリティサービスです。つまり、CNAPPにはCSPMの機能が含まれています。CSPMは、1つのセキュリティツールですが、CNAPPは、それ自体がセキュリティツールではなく、さまざまなセキュリティ機能が複合的にパッケージ化されたプラットフォームという点が違いです。
近年、クラウド環境でソフトウェアやアプリケーションを開発する企業も増えつつあります。クラウド環境における開発のセキュリティ対策を講じる手段の1つとして、CNAPPのニーズが今後さらに高まっていくことは十分にありえるでしょう。これから開発環境を整える予定の企業や、システムの再構築を予定している企業であれば、CNAPPを導入するのもおすすめです。
CSPMソリューションにはさまざまなサービスがあるため、自社に合ったものを選ぶ必要があります。CSPMソリューションを選ぶ際に押さえておきたいポイントは下記のとおりです。
CSPMソリューションを選ぶポイントは、自社で利用しているクラウドサービスをサポートしているかどうかです。
CSPMは、API経由でクラウドサービスの利用設定などをチェックできますが、ユーザ企業数が限られている業界特化型のクラウドサービスなどは、必ずしもチェックをサポートしているとは限りません。一方で、AWSやAzure、GCPといったユーザ企業数の多いクラウドサービスであれば、CSPMによる利用設定などのチェックをサポートしているケースが多いと考えられます。CSPMを導入するメリットの1つは、マルチクラウドを一元管理できることであるため、事前にAPI連携が可能な範囲について、十分に確認することが大切です。
マルチクラウド環境への対応の可否についても、CSPMソリューションを選ぶポイントの1つです。
現在、単一のクラウドサービスを利用している場合でも、将来、複数のクラウドサービスを利用する可能性があります。その際、新たに導入したクラウドサービスの管理・監視を行えないようでは作業が煩雑になりかねません。マルチクラウド環境においても一貫したセキュリティ対策を講じられるよう、対応の可否について確認することが大切です。現状必要としているセキュリティ対策だけでなく、今後の事業フェーズやビジネス環境の変化を見据えてCSPMソリューションを選ぶことをおすすめします。
国際基準にもとづくチェックがどこまで対応できるかも、CSPMソリューションを選ぶ際に確認しておきたいポイントです。
クラウドサービスの設定ミスをチェックする際には、事前に設定するチェックルールが基準となります。安全性の高い運用を実現するには、国際基準に則ったセキュリティフレームワークに対応しているソリューションを選ぶことがおすすめです。クラウドサービスは、インターネット常時接続による使用が前提となるため、常に国内外からの脅威にさらされます。国際基準のセキュリティフレームワークに対応しているCSPMを導入することは、こうした脅威からデータを保護する上で欠かせないポイントといえるでしょう。
CSPMは、クラウド環境におけるセキュリティの状況に関する管理・監視を目的としたソリューションです。また、企業にとってクラウド環境を効果的かつ効率的に保護していく上で、重要なセキュリティ対策の1つとなります。CSPMを導入することで、パブリッククラウドの利用状況とリスクが可視化されるほか、マルチクラウドの一元管理や国際基準にもとづくチェック、設定ミスなどの検知が可能です。適切なソリューションを導入し、CSPMの仕組みを取り入れることは、企業や組織を脅威から守る上で重要なポイントとなるでしょう。
トレンドマイクロが提供する「Trend Vision One」は、企業や組織のシステム全体を保護するセキュリティプラットフォームです。「Trend Vision One – Attack Surface Risk Management for Cloud」にはCSPMの機能が含まれています。マルチクラウド環境にも対応しているので、複数のクラウドサービスを併用している企業や、将来的にクラウドサービスを複数導入する可能性のある場合にもおすすめです。複雑化するクラウド環境において求められるセキュリティ対策を講じたい場合は、ぜひTrend Vision Oneをご活用ください。